[Class] 授業用ビデオ教材を作成している経緯

2013年度前期から,授業用ビデオ教材を作成し,授業に利用しています.これは「反転授業」を志向しているからですが,この反転授業についてと,金野がビデオを作成している意図などを紹介します.

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-> ビデオ教材を利用した授業の進め方(実際に金野が行っている授業の説明です.)

新規作成 (2013-04-22)
金野のブログ記事へのリンクを追加 (2014-04-18)

* 反転授業とは

「反転授業」(flip teaching, flipped classroom, inverted classroom)は,通常の授業とは教室での学習と自宅学習との方向性が異なることから,こう呼ばれます.

通常の授業では,受講者は教室での講義を聴いて学習し,知識を得ます.そして自宅学習で宿題や演習問題などを解き,その知識を確認します.つまり教室での学習はインプットで,自宅学習はアウトプットです.

それに対して反転授業では,受講者は自宅やPC演習室などで講義ビデオを聴講し,知識を得ます.そして教室では演習問題を解くなどして,その知識を確認します.自宅学習がインプットで,教室での学習がアウトプットなので,「反転授業」と呼ばれます.

過去にもたとえば教科書を自宅手予習してくるように指示したり,予習用の教材を用意するなど,自宅学習でのインプットを促す授業は行われてきました.ビデオ教材を利用した,現在の反転授業と同じ形式の授業も,一部では以前から行われていたようです.近年のインターネットの普及,およびPCやタブレット端末など,ストリーム動画を容易に視聴できる環境の普及により,ビデオ教材を用いた反転授業が,特にアメリカで(2010年頃から?)急速に採用され始めています.日本では2012年頃から普及し始めたようです.

* オンライン授業の衝撃

金野が反転授業について知ったのは,朝日新聞の「教育をタダにする オンライン授業の衝撃」という2013年3月の特集記事からでした.

  1. (教育をタダにする オンライン授業の衝撃:上)学びの革命、世界が舞台(朝日新聞デジタル)
  2. (教育をタダにする オンライン授業の衝撃:中)優秀な受講生、企業に紹介(朝日新聞デジタル)
  3. (教育をタダにする オンライン授業の衝撃:下)自宅で受講、教室で「宿題」(朝日新聞デジタル)

(すべての記事を読むには,朝日新聞デジタルの会員登録が必要です.)

上記3つの記事のうち,最後の「自宅で受講、教室で「宿題」」が,反転授業を取り扱っています.しかし金野はむしろ最初の2つの記事に触発されました.MOOC(Massive open online course, ムーク)により,「世界のすみずみまで一流大の授業が広がり、あらゆる地域の意欲ある受講者とつながっていく。」(上記記事より)

上記記事には,「私でも名門大学が求める水準をクリアできると証明したくてノートを取り続けたら、スタンフォード大の最終試験で95%もとれたの。将来の雇用主にも堂々と見せられるわ」と話すフロリダ出身の女性が紹介されていました.

この女性は,スタンフォード大の最終試験で95%取れても,それだけではスタンフォード大学の卒業生にはなれません.もちろん,工学院大卒にもなれません.ある科目で名門大学が求める水準をクリアできることは証明できたと言えるでしょうが,大学卒業の要件を満たしたとは言えないからです.

しかし,じゃあ工学院大卒と,スタンフォード大の最終試験で95%取れたことと,社会や企業はどちらを評価するだろうか? ひとつの科目だけだったら,工学院大卒の方を評価してくれるかもしれませんが,もし名門大学の多くの科目のオンライン講座を修了したのだったらどうか? 名門大学のオンライン講座を修了した高卒生より,うちの学生の方が優秀だと言えるだろうか? (ついでに言うと,英語圏のオンライン講座を修了したのであれば,ある程度の英語力があることも併せて証明できるでしょう.)

上記の3番目の記事に,大学で反転授業を行っている例が紹介されています.カリフォルニア州・サンノゼ州立大学の例ですが,そこで使っている教材はMITの講義動画だとのことです.(おそらくMIT OCWのコンテンツだと思われます.)

オンラインで多くの講義教材が提供されるようになると,世界中の若者たちがそれを使って学習できるようになります.しかしそれらコンテンツの多くは,英語で提供されています.そうすると日本在住で,日本語しか聞き取れない若者は,どんどん世界から取り残されていってしまうのではないか.そうでなくても勉強しないと言われている日本の大学生が,ますますたこつぼ化して「使えない人材」になってしまうのでは? という危機感を持ちました.

学生さんたちが「自主的に」学習できる能力を身につけ,もっともっと勉強してもらいたい.そのためには,MOOCなどを使って学習できるようになってほしい.そのためには,大学の授業で同じものを提供して,体験させればいいのではないだろうか?

このような考えから,ビデオ教材を利用した授業に取り組み始めました.

* 授業に求められる機能が変わる−説明がへたくそでもかまわない

授業用ビデオ教材をYouTubeにアップしはじめた頃に,世界中に配信するなんて勇気があるなと言われることがありました.他の専門家から間違いを指摘されたり,説明がへたくそだと笑われたりしないか.

金野は,それは問題ではないと考えています.間違いが指摘されれば,学生の正しい理解につながりますし,もっと分かりやすい教材があったら,学生たちはそちらを使って学習することもできるわけですから,ありがたい話です.金野は恥をかくかもしれませんが,学生にはプラスです.

また,オンラインでの講義教材がたくさん配信されるようになると,大学の役割は,いい授業を提供することではなくなるだろうと予想されます.授業で学生に「先生の説明が理解できない」と言われたら,「じゃあ他の先生の説明を聞きなさい」と言えばよい.それこそ,東大やMIT,ハーバード大の教材を使って学習してほしい.

自ら学習する学生であれば,教員の説明が下手でも−もっと極端な場合は,教員が説明を全くしなくても−勉強することができる.大学は,彼らの理解の度合いを測定し,不足していたらさらなる学習を促すことが仕事になるのではないか.

もちろん,自分でビデオ教材を作成する際には分かりやすく説明することを心がけていますし,改善も図っていくつもりです.しかし特に大学の反転授業では,自宅学習用のよいビデオ教材を作ることが大事なのではなく,反転させて教室で行う演習やグループ学習の課題設定や実施,評価の方が大事であり,今後さらに重要になってくると考えています.(上記の3つめの記事「自宅で受講、教室で「宿題」」でも同様の考え方が紹介されています.)

* 実際にやってみて

* 教材作成

上記の「教育をタダにする オンライン授業の衝撃」の記事が掲載されたのは2013年3月ですが,そのときに反転授業をはじめることを決意し,いろいろ準備しました.

はじめはKhanAcademyのように,ペンタブレットを使って教材を作ることを考えていました.しかし実際にやってみると,ペンタブレットでの教材作成は難しかった.特に漢字をペンタブで書くのが難しく,ゆがんでしまったり,偏と旁が重なったり.

何度か練習もしたのですが,その後,Pro vs. Khanというページに掲載されていたRubinstein氏の教材(Khan Academyに対抗して作られたもの)やそこで紹介されているビデオを視て,そうかペンタブにこだわる必要は無い,紙とペンで行けるじゃないかと気づきました.

そこでヨドバシカメラに行って,USB接続のウェブカメラLogicool HD Webcam C525を3,480円で購入.これを使って,ルーズリーフに図や説明を記入しながら音声で説明し,それを録画・録音したビデオ教材を作り始めました.

* 授業で使い始める

2013年4月の授業から,実際に反転授業を開始しました.はじめは2年生の「流れ学I及演習」.これは1時間目が講義,2時間目が演習という,うちの大学用語で講義演習科目と呼ばれる授業でした.

1回目の授業は旧来通りに,1時間目に講義をし,2時間目に演習をやりましたが,そのときにビデオ教材を紹介し,次回からは講義はしないで1時間目から演習をやると宣言しました.

これ以降の経緯は,金野のブログに書きましたのでご覧ください.

2014年度も継続してビデオ授業を実施しています.


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金野 祥久  konno 'AT' researchers.jp

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Last modified: Tue Apr 23 19:18:09 JST 2013