Final Update: Nov. 21, 1997

国際学会での発表のために

by 水野明哲

0. はじめに

 海外における国際学会に参加する度に、日本人の英語による発表の技術が不十分なケースが散見される。私自身も十分とは言えないが、ある程度の経験を積んで、今後発表に行こうという方々の参考になれば、という意図で以下のアドバイスを記述する。「英文論文の作成」についての説明と、「英文による口頭発表」についての説明とからなる。若手の研究者、技術者が大いに国際的な活躍をされることを願ってやまない。  なお、以下に述べるような内容は、さまざまな出版物にも書かれているものと思われるが、それらは一般に大部で、読破して利用するにはあまりにも手間がかかりすぎる。ここではごく簡単に要点のみを記述するにとどめる。また私の知識不足、認識不足などから不適切な部分もあるかも知れないが、おおむね役に立つのではないかと考えている。お気づきの点はご指摘いただきたい。

1. 英文論文の作成

論理の展開を明確に

 英文だから特に必要なことではない。日本語の論文を書く場合にも論理の展開を明確にすることはきわめて重要で、すぐれた論文は必ずそうなっている。しかし、やはり日本語で書く場合に比べて英語の論文を日本語から直訳したことにより訳が分からなくなる場合が多い。特に和文英訳を専門の業者に依頼する場合などは、もとの日本語がよほどしっかりしていないと適切な英語にはなり得ない。  論理の展開というのは、細かいスケールではひとつの文のなかで、主語・述語・目的語等の関係がきっちししているかどうかである。大きなスケールで言えば、序論で述べられている目的が結論で達成された旨報告されているかどうか、またその結論に達する論理的プロセスが本文中に章を追って展開されているかどうか、ということになる。  日本語では曖昧な表現でもなんとなくわかってもらえる部分があるが、英文にする事を考えて十分に注意したい。参考文献の「理科系の作文技術」を参照いただきたい。

内容の洗練

 あまり多くの材料(情報)を盛り込まず、重要な点に限定して、少ない内容をわかりやすく記述する。せっかく海外へ発表に行くのだから、できるだけたくさんの内容を盛り込みたい、と考えるのが人情である。しかし、限られた(たいてい10分〜15分程度の)与えられた時間内で、(たどたどしい)英語で説明をして多くの聴衆に理解してもらえる内容は限られている。たくさんの内容を盛り込んだために、結局何も理解してもらえず、逆効果になることがほとんどである。それよりは、重要なポイントのみに絞った説明をし、それをさまざまな角度から説得することにより、自分のやったことの正当性や意義を明確にすることの方がはるかに重要である。  論文の内容は、口頭発表の内容と整合している必要があり、「あとは読んでおいてください」というようなのは無責任で好ましくない。したがって、論文を書くときに口頭発表で可能な範囲に限定することが望ましい。

英文論文の作成方法

日本語から英語に訳す場合
訳しやすいような、やさしくわかりやすい日本語で。主語、述語を明確に書いておくこと。修飾関係を明確に。「美しい着物を着た人」と書くと、「美しい」が着物にかかるのか、人にかかるのかが不明確。これでは正しく訳せない。「絵柄の美しい着物を着た人」とか、「着物を着た美しい人」とすれば誤解は生じない。  自分で訳す場合、業者に訳してもらう場合で異なるが、関連のある英文論文を参考にしながら、専門用語等もなるべく自作のものでなく、他の研究者も使っている言葉から選ぶようにする。  自分で訳した英語は、できるだけネイティブか慣れた人にチェックしてもらうこと。単数・複数、時勢などで問題があることも多い。冠詞の使い方が難しい。冠詞については「日本人の英語」に説明があるので目を通しておくとよい。 最初から英文で書く場合  ある程度英語に慣れている人は、おおよその目次を作っておいて、最初から英文で記述することが望ましい。英語で考えて英語で書く、というのが本来の姿なのだから。もちろん、文法に則っていること、論理的な記述であること、ミススペルを十分チェックしてあること。やはりネイティブか慣れた人にチェックしてもらうこと。 英文論文の査読をしていて、ひどい英語に出くわすことがある。文法的にミスが多いために、せっかくの内容が不当に低く評価されてしまうので、十分注意したい。

2. 英語による口頭発表

講演原稿の準備

普通はOHPの各シートに対応して講演の内容を作文しておく。耳から聞いてわかってもらえるためには、書かれた論文よりは理解しやすい平易な英語にしてしゃべるべきである。また、言葉の定義などは繰り返して説明するなど、論文とは異なるものであることの認識が必要である。

OHPの準備

何の図であるのかを説明するキャプションが適切につけられていること。 最小の文字でも14ポイント以上程度で、読みやすいこと。 グラフは座標軸(縦軸・横軸)が何であるか、単位などがわかるようになってい ること。 できればカラーなどを適切に使って、印象に残るような図を作成するのが望ましい。
Introduction や Conclusion においては、箇条書きなどでわかりやすく。 長い文は避ける。

発表

 講演原稿は、ネイティブの人に読んでもらったテープを作成し、それを聞きながら、発表の練習をする。ある程度練習した時点で聞いてもらって発音を修正する。  しゃべる内容は、覚えてしまうことが望ましい。(できれば)  聴衆の方を向いてしゃべること。OHPスクリーンの方ばかりを見て、聴衆に背中を向けたままでしゃべるのはまずい。

参考文献

木下是雄:「理科系の作文技術」中公新書
マーク・ピーターセン?「日本人の英語」岩波新書(続編も出ている)
水野宛のメールはmizuno@fluid .mech.kogakuin.ac.jpまで

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