Final Update Nov. 21, 1997

英字新聞を読もう

 

訳さないで読む

  日本の英語教育は、英文和訳と和文英訳が中心である。しかし、英語を手段として使う段になると、翻訳していたのでは間に合わない。英文を読んで必要な情報を得たいというような場合に、いちいち訳していたのではらちがあかない。ましてや、会話の場合など、訳していたのではどんなに早く頭を回転させても間に合わない。このような状況のもとで必要なのは、訳さないで、英語の順番で理解すること、また英語で考えてそのまま書いたりしゃべったりすることである。日本では、中学高校と少なくとも6年間は学校で英語を習ってきているが、訳すことばかり習ってきており、訳さないで読み書きや会話をするトレーニングは全くといってよいほど行われていない。むしろ、英語を与えられたら、まず訳する、という習慣がしっかり身についている。役に立つ英語力を身につけるには、この習慣を捨て去ることが第1の関門となる。これができなければ、いくらがんばって努力しても成果はあがらない。しかし、英語を見たら訳す、という習慣はそう簡単には直らないものである。そこで、英字新聞の購読を勧める。

どのように勉強するか

  英字新聞は、毎日自宅に配達されることが必要である。なぜかといえば、20ページ以上もある新聞を読むとすれば、通常1カ月ぐらいかかるだろう。そのあいだは新聞を買う必要がない。しかし、同じ新聞が置いてあっても新鮮味がなく、毎日読もうという気にならない。毎日新しい新聞が配達されたら、まずは見出しだけでも見てみようと思うだろう。(じつは見出しを理解することが一番難しいことなのだが) もし、一日新聞を読まなかったら、その新聞は1字も読まれないまま古新聞になってしまう。そのような状況に置かれたら、だれでも毎日少しは読もうとするだろう。英語の訓練は毎日欠かさず継続することが必要で、どんな優れた教材でも「つんどく」では効果がでない。毎日配達されるということは、それだけ毎日英語に接する機会を強制されるようなもので、たとえ疲れて帰ってきても、せめて10分ぐらいはざっと目を通しておこうか、ということになろう。さっそく新聞の定期購読を申し込むとよい。朝日イブニングニューズあるいは読売や毎日の英語版がある。ジャパンタイムズは英語としては一番しっかりしているという評判であるが、やや難しいのと、値段が高いことで、必ずしも初心者にはお勧めではない。
 英字新聞が配達されるようになったら、はじめのうちは1日16分の1ページ、ある程度慣れてくれば8分の1ページ程度を毎日のノルマと考えよう。(英字新聞は通常8段組みであるから、その1段を読めばよいことになる。) もちろん夜遅く帰ったり、時間がないときには、もっと少ない日があっても構わないが、少なくともゼロの日があってはならない。読む記事は、1面の政治や経済のニュースよりは、社会面の交通事故や火災、殺人事件などの方がわかりやすい。スポーツ欄などもよい。はじめは、このような易しい記事や興味のある内容を選んで読むことを勧める。これらの社会面の記事は、しばらくすると単語もわかるようになり、楽になってくるはずだ。今までの、訳す習慣の人は、やはりわからない単語を辞書で調べて、訳せばよい。そのために読むスピードが遅くてあまり進まなくても気にすることはない。辞書で調べた単語はすぐに忘れてしまうが、それも気にしなくてよい。忘れたらまた同じ単語を引けばいいのだ。あるまとまりの記事をこのようにして読んだら、その後で、もう一度最初から読み返してみよう。2回目は単語もほぼわかっているから1回目に比べればだいぶスピードも上がるはずだ。なぜ2回目にもう一度読むかといえば、だいたい意味が分かっている英語を読むことにより、訳する作業をせずに英語を理解する訓練になるからである。以上のような読み方を毎日30分から1時間ぐらいかけてできれば理想的である。どうしても時間がないときなど、電車の中で10分でも15分でも辞書なしで、わからない単語は適当に想像しながら、全体の意味を把握できるかどうか、という程度に読めばいい。(ただし、毎日これではだめ)

3カ月経つと。。。

  このようにして毎日新聞に接して、3カ月から半年ぐらい経つと、頭の中の回路に変化が現れ始める。すなわち、訳す癖がなくなり、英語の順番で英語が読めるようになってくるのである。こうなると、途中にわからない単語があっても、そこで行き詰まってしまうことなく読み進むこともでき、読むスピードがうんと早くなる。ここまでくればしめたものである。しかし、まだまだ安心してはいけない。半分は辞書を引かないで速読をする、そして残り半分は従来どおり辞書を引きながら丁寧に読む、というように少しずつ読み方を変えてみるのがいい。電車の中で速読、うちに帰って精読というパターンもいいだろう。精読の時にはちょっと難しい社説や政治経済の記事などにも挑戦してみよう。だんだん読解力がついてくれば、英語の勉強のためにとっていた英字新聞であるが、ニュースを知るための手段として役に立つようになってくる。タイトルを見ただけで自分に必要な(興味のある)ニュースかどうかの判断もできるようになるだろうし、タイトルが理解できないときには記事の内容を読んで納得する、ということもしばしばおこる。

読むことと聞くこと

  読む勉強ばかりしていても、しゃべったり聞いたりすることには役に立たないのではないか、と思う人もいるだろう。しかし、私はそうではないと確信している。読むことと聞くことは、入り口が目と耳で異なるが、意味を理解する頭脳の働きはほとんど同じである。その証拠に、英語をたくさん読んだ週は、FENのニュースを聞くとよく聞き取れる、という経験をしばしばするのである。だから、「簡単な内容の記事ならば速く読める」というようになっていれば、「簡単な内容の話ならばよく聞き取り、理解できる」という状態に近づいている、と考えていいだろう。もちろん、聞き取りのためには英語特有の発音の癖や省略、イントネーションなどもある程度訓練する必要がある。しかし、速読ができるようになっていればきわめて少ない労力で聞き取れるようになるはずである。 (最近の研究成果で、聞くときと読むときで、大脳内で温度が高くなる部分が異なるという報告があり、私の上記の考え方があるいは間違っているかも知れないが、経験的には上に述べたとおりである)
水野宛のメールはmizuno@fluid.mech.kogakuin.ac.jpまで

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